015:ニューロン
「牛乳にゲロックって…相変わらずひねりもない...まぁ王道だけどな」

「隠し味にマヨ小さじ1/4」
「でたよ、三蔵の邪道...」

突っ込み体制に入るべく動いた悟空の手元が目に入ったらしく、
ボケ三蔵の唇もとが、満足げに緩んだ。

「緯度0度であり、緯度の基準。全周は約40,070km...」
「それは赤道!」

「四方を太平洋、日本海、オホーツク海に囲まれ...」
「それは北海道!」

「悟空、危ないから右左見てちゃーんと手を上げて渡るのよ♪」
「それは横断歩道!おい三蔵今から歓送迎会のネタ仕込みかよっ!」

「まぁまぁ病み上がりゆえ、色んな意味で目を瞑ってくれ。」

三蔵はYシャツのボタンを外しながら、
「悟空、良いと言うまで、決して覗いてはいけませんよ。」と、
どっかで聞いたような台詞を残し、ふんふんと鼻歌で浴室に入っていった。
(BGMどんなときも。♪)


シャワーの音がしはじめた。
「覗いてはいけません」と言われると見たくなるのが人である。

悟空はそっと、洗濯機と洗面台の間に腰を下ろし、
こっそりとドアに張り付いて覗いた。

「見えない...。」

乾燥機一体型の洗濯機の横には、2、3日分の山が出来ている。

そこが山ならさながらここは三蔵樹海、入り込むと抜けられません。
悟空思わずその禁断の山を掻き分けて見た。


三蔵の芳しい香りが漂った。
「まさか名前とか書いてないよなぁ(笑)」

名前は書いていないが、なぜかゴム部分に通しナンバーらしきものが書いてあった。

どうやらネクタイに限らずアンダーも同じ物で統一しているらしかった。
(キャルヴァンクラインご愛用)


翌日休むのに、必要な指示をしたいと病院に悟空を呼んだものの、
三蔵は、何かに憑かれたように昏々と眠ってしまった。

夜明けに目を覚まし、当分入院したいと言い張った三蔵に、
「甘えるな!明日から”目からウロコのアイディア商品祭り”だろうが!」と言い張った。

「そんなものお前と津波女史でどうにでもなる筈だ。」

「Maybe...ぶっちゃけ聖羅ちゃんの件、聞きたいし」
その一言でぐっと詰まった三蔵を無理やりタクシーに押し込み、
勝手知った道を運転手に伝えた。

「お前も一度帰って寝た方がいい…呼び立てて悪かったな」

「ふふん。このまま帰ると思うなよ。」

ドアの横に手をついた三蔵の
隙をつき鍵を奪った悟空は、さっさと部屋に入り込んだ。


まだ、元気は有り余っているようで、鼻息がフンフン聞こえた。

割烹着がかかったままの椅子に沈み込む横をすり抜け、
冷蔵庫を開ける。


「…マヨコレ?」

ヨード卵使用とかカロリーハーフとかマヨだらけ。
そういえば、ここ数日、三蔵が口にしているのを見たのは、
マヨネーズと、うまい棒だけだった。

「なんか買ってくるよ、何がいい?」
「コンビニ丸ごと」
「シバかれてーか!」
「…牛乳とコーンフレークがいい。ゲロック以外はダメだ。」



水の音は、安らかに眠気を誘った。

「…覗いてたな、お前」
タオルを頭に巻いただけの三蔵が、
呆れた顔で覗き込んでいる。

悟空は、股間が熱くなった。
「今夜は風呂場で一人にしといちゃもったいないって…」
「俺が風呂場で押し倒されて、てめえとそこでじゃれてたらホモじゃねえか」
さっぱりして気分がよくなったらしく、冗談を言う口も軽やかだ。

いや、三蔵に限って冗談なんて言える訳がない。

そういえば三蔵が女の話をしたのは、二次元なゴジョコちゃん以外聞いたことがない。
案内係嬢とのコンパを振っても全然興味がなさそうだった。

別のタオルでがしがし下半身を拭きながら出て行く足元も
心なしか踊っているようだ。

三蔵に襲われる?


急に悟空は今までに感じたことがなかった恐怖を覚えた。
ガタッと抽斗を開け、下着を履くと、
浴室のドアのところに立ったままの悟空に、タオルを投げた。

「こっ、降参しろってことか?三蔵。」
「違う洗濯物だ。」
「なんだ、それなら俺がやろうか?」
「寝た後でやるからいい(微笑)」

意味深な笑いが余計に恐怖心を煽らせる。
家に戻らなかったことを今更ながら後悔した。

ばりばりと高い音を立てて袋を破り、
三蔵は新しいコスチュームに袖を通す。

濃い紺に、鮮やかに金髪と白い顔が浮かび上がる。

(…うわっ何それ!ヘンテコ趣味かよ!)

悟空の頭に、病院ですれ違った、
うさん臭いヤンキー男の姿がかすめた。

暗い廊下で、不気味に映った、デカイ頭。
自分を呼んだのはあの男だったのだろう。
(…変態仲間なのかな)

「明日課長が聞いたら、また電波だべさって騒ぐよな」

話題をそっちに行かないように逸らした。
自分が近くに居続けられるのは、
三蔵の機密事項に不要に踏み込まないからだ。三蔵からも。

時折回りを退かせてしまう悟空の声にも
「お前はいずれ個性派声優として花咲くはずだ。」と傷つかないようにフォローしてくれた。

いくら馴れ合っても最低のマナーは守らなければならない。
まして自分たちの業種は、ひたすら低頭に、
笑顔を絶やさず居ることが当たり前だ。


施設で育った悟空は、社会に出る前から、
他人の群れの中での摩擦回避に慣れていたけれど、
群れからしょっちゅうはみ出ながらも、不器用な笑顔で接客する三蔵と働くのが好きだった。
北海道から来た課長は、地元人中心の会社では言葉が違う。

都会は高いビルが沢山あるから、変な電波がわいている、という自論に固執して、
社員の病気は皆そのせいにしたがった。


「まあ、あながち嘘でもないけどな。
お前も販促会議できいたろ。いくら高くてもマニアックな
レア物が売れるのは、進化しきれない幼稚な細胞膜が怪電波によって活性化するせいだから、
電波の中でもニュー品薄ゲットロングタイプ、略して”ニューロン”が長い波動で
迷える乙女なヲタク心をがっちりキャッチ。俺も何度もやられている。
まぁそんなことより…明日の”目からウロコのアイディア商品祭り”だけどな」
三蔵は鞄を引き寄せ、カタログを開いた。


「客引き用ビデオは間違えるな、きっちりやれよ。」
思惑通り話が逸れてほっとした。
「三蔵でもあるまいしゴジョコレはかけないよ、大丈夫だって。
 まぁ商品自体は素で笑いと関心を引き付ける。顧客集中が10時開店と同時だから、
 デモンストレーションと同時進行でする。」
「お茶の間ネットの巧みな話術は勉強したな?」
「昨日までのところは問題ないけど、
肝心な所で噛み噛みの危険はやっぱりあるし、
マダム達の突っ込みに負けないように、もう一度やっとく」
悟空がメモも見ずに受け答えしているのに気付くと、
三蔵は肩をすくめて、アメリカンなポーズをした。


「…アンビリーバヴォー」
「三蔵こそあんまり俺のこと舐めんなよ、ついでにマヨも」
見てたのか?非常口付近での緊急マヨ行為。


「内緒にしておいてくれ。」
「いいよ、別に。」
原因が何か定かではないが今回の病院騒動に少なくとも因果関係を
認めざるは得ないだろう。


少し疲れた体に刺激的だったか携帯マヨ........

「寝る。携帯切っとくから、
有休使うって津波に伝えてくれ、
人手足りなかったら洋食器から誰かヘルプ出してもらえ。」
三蔵は布団を出し、
コスチュームのままで、ごろりと横になった。


「それパジャマなの?」
「パジャマで悪いか?」
「いや、個人の趣味だから悪くないさ、じゃ、食い物買ってくるよ。
寝てたら鍵かけて新聞のとこに突っ込んで帰るから」

「ああ、頼む」
ドアを後ろ手にそっと閉めると、朝の陽光が突き刺さってくる。

思わず目をつぶって深く息をついた悟空の瞼の裏に、
三蔵のコスチュームの色彩が浮かんだ。
「聖羅ちゃんのこと...聞いてねーよ(泣)」





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三空?(笑)こういう悟空可愛くって好き。三蔵なんのコスチュームで寝たんだろうな。 TOP


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