017:√

目からウロコの7階催事場で
なぜかスケブを差し出されたところで、目が覚めた。

「夢か...」

最近忙しくて原稿どころの騒ぎじゃなかった。

このままでは確実にゴジョコオンリーの新刊は落としてしまう。
「コネタ4コマコピー本と残りわずかな在庫本でよしとしよう。」

残業と銘打って会社のコピー機で10部くらいならいいだろう。
そういえば津波女史もこっそりなにかやっているのを俺は知っている。
この前も原稿とり忘れてたからこっそり保管してあるのだ。
見つけたのが俺で良かったぜ。


キツイ女だが結構お茶目なところもあるもんだ(笑)

ふと目を向けるとブラインド越しの強い光が、真っ白な原稿をさらに光らせていた。

(何時か?)


ゴジョコ時計を掴む。

「どこさわるんだにょーん。只今午後1時30分だにょーん。」


携帯を覗くと着信の表示はない。

「今日は思う存分ヲタ出きる」と思うとほっとした。

先々月までは必死にどのイベントにも廻っていたので、
行くとこ行くとこでチヤホヤされて、すっかり味をしめ
寝る間も惜しんでオンオンオフオフをしていたらツケがきた。

悟空が、単なる過労だと伝えたはずだから、ヲタって寝不足、不摂生
あーんどマヨネーズによる軽い食中毒というのは
よっぽどのことがなければ、ばれるはずが無い。



(…ヲタクらしいぜ)


こんな時間の布団の温もりはひどく正統派な引き篭もりに思えた。

休日といえば、早起きし三蔵はヲタっている−時間の許す限り。

スランプのときは翌日朝まで死んだようにふて寝してしまう。


おもむろにペンに手を伸ばした。

軽い眩暈で畳が波打つような気がしたが、おそらく、妄想過多だ。
ナチュラルハイな状態で揺らめくα波な構図が浮かんだ。


DKのテーブルの上には、
レトルトのスープや粥のパック、パンやシリアルの箱に混じって
食玩付き菓子も積んであった。

「判ってるじゃねーか」

悟浄のせいだ。

前はさほど興味もなかったが大黒屋で会う度に見せびらかされて
封印していたコレクター癖に火が着いた。


悟空はそれを覚えていたのだ。

バナナで押さえてあるメモには丸っこい字で、
”冷凍庫にも色々入ってるぜ。ちなみに
凍ったバナナは釘も打てるんだぞ。”

いつもは氷しか作ってない冷凍室を開けると、
バナナ1本と冷凍食品とがぎっしり詰まっていた。

「あいつ、俺をガッチュ石マッチョと思ってやがる…」

寝起きでいきなりバナナを食えるやつなんてガッチュをおいて他にいない。

パックのスープを温めて皿にあけると、ニンニクの匂いに、きゅうと胃が刺激された。

ゆっくりと口に運ぶ。…なんとか受け体質は保てそうだ。あはん。ごじょv


「何考えてんだ、俺」


歯を磨いて、もう熱が抜けた布団に転がる。

「悟浄さん悟浄さん、三蔵君がお待ちです。至急三蔵家までお越し下さい...
 って来るわけねー」


ここ暫く続いていた、悟空に、ふっと足場をさらわれるような
スリルとショックとサスペンス。

ただでさえ俺は高い所と狭い所は苦手なのにその両方を兼ね備えたロング脚立。

天井付近のディスプレイは特に注意が必要だ。

悟空は隙あらば、俺の脚立を揺らしたりする。

全く社会人としてなっていない。

日頃の些細なウップンが、体をひたしていく。

「暫く休んでヤツに忙しい目にあってもらおう(笑)」

津波に覗かれそうになったネタメモの裏に、
閉じるのを忘れたブラインドの作る縞模様が、白っぽく反射した。

畳縁と、斜めの線が作る記号、Zに似たアレ、が、

(なんて、言ったっけか?Zといえばマジンガー、Vと言えばコンバトラー)

ヘイヘイホー?いや平方根だ。

思い出したがもう手遅れ、頭の中で与作が延々と木を切る動作を繰り返す。

今の時代、たとえ与作といえども斧では効率が悪いだろう。

そんな稼ぎじゃ女房にも逃げられる。


そこで早急に与作のオートメーション化が必要だ。
そうだ!チェーンソーを持たせよう。

深い森の中でエンドレスチェーンソー。


人呼んでジェイソン与作。

どっかで聞いたことある名前だな。


「ジェイソン与作?」

そうだ...思い出した。

悟浄の愛するプロレス団体所属選手だった。

(…どうでもいいことじゃねえか)

そうじゃない平方根だ。


天井が、数式だらけに見えてくる。


(3は割り切れねえんだよな…5、もか、えっと人よ一夜に皆殺しだっけか?

 めんどくせぇ、割り切れないなら全部掛けちまえばいーんだ)



三蔵はハエのように顔の前で手を擦り、寝返りをうった。


目の前の携帯が、ゴジョコヴォイスで呼んでいる。


「兄貴!お電話だにょーーーーん。」


(−津波かも?)

ディスプレイも見ずに出た。


「コピー機に原稿忘れてたぞ!!」

「原稿?もしもし、−あ、三蔵…?病院じゃねえの?」

「ヘイヘイホー」


脳の海馬が、まだ与作に執着していた。

「大丈夫か?三蔵」


「まだ、なんとも言えんな」






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平方根=ヘイヘイホーの呪縛がとけないのはあたしです...




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