021 はさみ



目覚ましハッスルTVの時間だと、思った。

「今日の射手座は何位だ。」

「もぉ年寄りは朝早いんだから、なに楽しみにしてんのさ。
期待してっと最下位かもよ」

「朝からくっつくな!キモイぞ。」

「あら邪険にしないでよ、ここはキモチいいって♪」

捲簾は、悪戯に三蔵にタッチした。

「てめぇふざけやがって」

「なんもふざけてないべさ。スキンシップ!」



捲廉はくねくねと布団から脱け出し、浴室に入っていった。

三蔵は慌ててTVのスイッチを入れた。

ぼーっと画面を眺めながら、あんな変態野郎を泊めたことを後悔していた。

きっと夕べも知らぬ間に何かされていたかも知れない。

鳥肌を立てている三蔵にTVは告げた。

やはり射手座は12位だった。


捲簾の予言が見事当っているではないか...

〜同僚の甘い言葉に惑わされぬよう自分の意思を貫いて〜

「ふん、悪い占いは信じない性質でな。」

三蔵はTVに突っ込むとおもむろに煙草に火をつけた。

「ぷるるるる〜ぷるぷる思いっきりお電話だにょーん、
ぷるるるる〜ぷるぷる思いっきりお電話だにょーん、
ぷるるるる〜ぷるぷる思いっきりお電話だにょーん、
仏の顔も三度まで〜
兄ちゃん甘い顔してたらいい気になりよって、はよでーや!」

携帯の新着ゴジョコヴォイスが、けたたましく鳴り出した。
「孫です。朝早くにすいません。今日、有休取らせて頂きたいんですが」

「…有休?」

三蔵は有休と言う言葉に敏感だった。

三蔵自身、有休と言うものは年に二度この日は譲れないと言うくらい
大事なあの日の為に使うものだと思っている。

「おい悟空いいのか?この時期に使ってしまうと後で後悔するぞ!」

言ってから後悔したのは三蔵だった。
...しまった、悟空はヲタクじゃなかった。

「後悔もなにも、今日のおひつじ座、11位で通勤時の事故に注意だったんです…」

半ば焦っていた三蔵の頭に、光が行き渡ってくる。

「今日は射手座が最下位だって解ってて言ってるんだろうな?」

ぐっと詰まった気配が伝わってくる。

「だって回避するには上司に相談して有休をって言ってた。
三蔵、見本市なんて明日もあるだろ」

「で、後回しにして俺に売り場立てってか?上司はどっちだよ、ああ?今どこだ」

「駅前の、吉牛…」

「北口の方だな?15分で来い」


返事を聞かずに切った。
まだ鳴っていないゴジョコ目覚ましにチューをする。

頭髪を拭きながら捲簾が出てきて、勝手に箪笥を開けて新品のゴジョコTシャツを被った。

「信じらんない!どういう趣味してんのさ、これ。
まーだ二次元ラヴ治ってないの?いい年こいて」

「あっそれ!」

「何、涙目してんの?」

「...もったいなくって今まで着てなかったのに」

「なんも同じの10枚くらい入ってるべさ、ケチケチしない。」

「帰りにちゃんと置いてけ」

「間違ってもこれで外出るわけないっしょ、あたしは堅気よ」

「まぁな、その辺の事情は俺だって百も承知だ」

言っていて少し空しかった。

ヲタですと、カミングアウトしてしまったら歯止めが利かなくなるのは解っている。

だからせめて箪笥のなかくらいはゴジョコTシャツで埋めたかったのだにょーん。


「で、どっから電話?」

「悟きゅうだにょーん...(汗)いや悟空だ」


「あら、チビちゃんかい」

二本目の煙草に火を着けようと思ったらガス切れだった。

「はんかくさい三蔵」

チュッパチャップスを咥えた捲簾が予備を差し出す。

捲簾はキャンディを、常備している。

「今時、煙草なんて他人さまの迷惑、嫌煙家捲ちゃんって最近言われてるさ。

煙草吸われそうになると、これ突っ込むの(笑)それに、男が舐めまわす仕草って、萌えるっしょ」

咥えるものは違っても、お互いいつも口寂しいもの同士なのか。

「あの人」が自分達に残した教えのひとつ。

自分と、自分の選択への忠誠が、流転する世界で、後ろ指にも耐えられる♪
(意味:興味あるジャンルにとことん拘るのがヲカマ&ヲタク道。まぁ流行すたりはあるけどね。
そのうち渡る世間の目も気にならなくなってきたらしめたもの♪by光明)


悟空にも、人に言えない趣味はあると信じている。

いや、ああいう奴に限って自宅はワンダーランド、もしくはネヴァーランドのペーパーさんだ。

星座占いを気にする辺り、芸能人の誕生日を無駄に暗記しているかもしれない。


だから、今日いきなり有休を取るのだと、三蔵は思い込んでいた。

*     *     *     *     *


俯いたまま入ってきた悟空は、ネルシャツにベスト、踵を擦って脱いだ靴もスニーカーでなく長靴だった。


始めから、会社には行かない気だったらしい。

「今日は最終日じゃねえか。責任感ってもんはねーのか、何で今日になって」

節約セレブ!三点まとめて一万円セールの仕事は、名目上は三蔵がリーダーだったが、
最初の打ち合わせに行っただけで、実際の仕切りは始めから悟空にやらせていた。

内容は鍋、釜、包丁、18-8ステンレスカトラリーセット
隙間無く使いこなせる密閉容器セットなどなど
古今東西メーカーの倉庫で眠っていた家庭用品を底値で仕入れ、
びっくり価格で奥様方に提供するというデパートでは恒例のスタンダードな企画だ。
隣の洋陶器売り場で行っている「ロイヤルオッペケペハゲブライダルコレクション」を冷やかしにきた
お嬢様に間違って買ってもらえたら儲けもん的企画なのだ。


展示した時点で4割売れれば大成功、
残りは正月の福袋にたらい回しで結果オーライと誰もが思った。

だが、悟空と来たら、
「最近書店などで目にしますが、店員の○○推薦と手書きコメントを添えるというのはどうでしょう。
売り上げが目に見えて変わるといいます。我が売り場もそっけない値段と商品名のPOPじゃ
あまりにも寂しいと思いませんか?」

「そうね、確かに孫ちゃんの言う通り。マネージャーこの際手分けして
お勧め商品に手書きコメント入れない?」


横から津波が提案をプッシュした。

本当はそんなこと面倒くさくてしったこっちゃねーが
否定して津波がひねくれると、二次災害が怖いので
ここは大人になり賛成をしておいた。

「じゃマネージャーはこれ担当で」

「なんじゃこりゃー」

「新婚向け三合炊き炊飯釜、その名も”釜騒ぎ”」

売れねぇ....


悟空は何考えてこんなもの仕入れてきたのだろう。

三蔵の頭の中で痔炎と捲廉がチアガールの格好で乱舞を始めた。

「はぁ.......」

深いため息がでた。



他の社員はそれぞれ大盛り上がりで自分の推薦すべく商品を
取り合っていた。
その夜、三蔵は持ち帰った”釜騒ぎ”で御飯を炊いてみた。

いつもより米粒が一つ一つしっかりと立っている。

「藤山起目粒...」    *すごいよ!マサルさん参照

透明感のある艶っぽい炊き上がりに三蔵は満足した。

北海道に転勤した同僚から送られてきた虎杖浜産たらこがまだ残っていたはず。

「たらこにはバターでしょー」 にやけながら、思わず石橋T明の真似でたらこバター御飯を満喫した。

「たしかに釜炊きはうまい」

食後の茶をすすりながら10パターンほど「釜騒ぎ」についてコメントを書いてみた。

冷静に見ても半分は消費者心理をくすぐるいい文章だった。



チェックの段階で一人でも、「そのコメントじゃ売れないでしょう」の声が出たら、
今までの時間を棒に振ろうが、お蔵入りさせる、と津波も言っていたし、三蔵も同意していた。

だが三蔵は内心自信があった。

売り場全体も、ギラギラと燃えていた。

企画はことのほか好調にスタートし、
三蔵のコピーのせいかは不明だが、あの”釜騒ぎ”も順調にはけていた。

そして今日、セール最終日、18時には撤収して、終わる筈なのだ。

それをなんだ、今日になって。

湯気の立つお椀が、それぞれの前に置かれる。


「食べながらでも話せるっしょ」
「あ、…石狩鍋」
初めて、悟空が顔を上げた。
「でも、捲ちゃんの分」
「大量に作ってあるからなんも心配ない。
それにあたしは今日休みだから、あんたたち先にどーぞ」

「いつの間に作ったんだ...」

味噌と葱の匂いが部屋いっぱいに広がっているのに、
気付かなかったほど、三蔵も、肩に力が入っていた。

鮭のアラにかぶりついた悟空が、くすんと鼻をすすった。

そして忙しなく、身を口に運び続ける。

「ハナタレックス♪」


捲簾がティッシュの箱を押しやると、掴み取って鼻をかみ、
ぐしゃぐしゃ顔を拭って、それでも食べ続ける。

「まじで風邪でもひいてんじゃなぁい?」

「…引くのは風邪じゃない、竿だっ!」


「何いってんのチビちゃん」

*     *     *     *     *




箸を置いて、コップの水を飲み干すと、悟空は大きく息をついた。

「今日どうしても行きたいんだ」

「は?どこに?なんで?どうして?だれと?」

「三蔵には関係ないんだよ…海が俺を待っているんだ、
とにかく有休とって行かなきゃならねーんだ。
俺、頑張って仕事してれば、納得して有休もらえるだろうって、
三蔵だって夏と冬に連休で取るじゃん。
なにやってるかは知らないけど最優先でさ。
俺も今回のこれ逃したらぜってー後悔する。
売り場の皆も一丸となって、頑張ってくれたから最終日まで見たかったけど。

興味ない人には無関係だけど、今日、明日ってカツオの大回廊なんだ。
馴染みの船から連絡あって、どーしても誘いたいって。
今まで三蔵に隠してたけど俺、根っからのフィッシャーマンなんだー」

おお、新しい戦隊ものか...


”お前はせいぜい食いしん坊のフイッシャーイエローだな”
と突っ込みそうになるのを必死でこらえ
「言いたいことはわかった」

と三蔵は、チュッパチャップスを噛み砕いた。

「さっさと、行け、船に置いてかれるぞ7時半出航第5伊豆山丸だな?」

「なんでそれを」



縁が赤くなった悟空の眼が、びっくりして全開になる。

「今日はいい潮の流れだ。この分で行くと間違いなく大漁だ。
ハナダイも朝から入れ食い状態、7kgの大平目も運良ければいけるかもな。
それぐらいわかってんだろ?」

三蔵は先日ネタ探し中ネットで見つけた情報を適当に言ってみた。

「わかっ…てる」

おっまぐれで当ったらしい(笑)

「俺も行くから」

また、垂れていた頭が、ぱっと上がる。

「…でも三蔵の有休はとっとかなくっていいのかよ。」

「一日くらい使ったって屁でもねぇ。たまには津波に頼っていいんだ、
立ってる者は親でも使えって。 押し付けるか自分で全部抱え込むか、しかねえんなら、
会社に居る意味ねえだろうが兄弟!」
「…はい、マネージャー」


「昼過ぎには大漁だろ。」

決まった.....

三蔵は久々に男らしい自分に酔いしれた。

こんな天気の良い日にデパートの中で缶詰という気分ではなかった。

釣りというものにちょっとばかりそそられてしまったのは紛れも無い事実である。

一日くらい仕事さぼったって俺の変わりはどうにでもなるのだ...と三蔵は確信していた。

「じゃあ、戦利品もって店来て、チビちゃん。もうひとつバイト始めたの」

皿を洗っていた捲簾が水をとめ、悟空に背後から抱きついた。

「休みじゃないの?捲ちゃん」

「5時からからなんちゃって板前の修行。
将来お店持ちたいから、お友達の小料理屋でがんばってんのさ。
アジとかサバとか開いたりおろしたり。時々お友達の足も開いたり閉じたり(笑)
ここでやってもいいけど三蔵の包丁素人くさいっしょや」

「悪かったな、素人で」

*     *     *     *     *



「ねぇ、その津波ちゃんって、三蔵に…コレなわけ?」
小指を立ててみせた捲簾に、悟空は少し赤くなり、首を振った。

「小指と言うよりこれだ…」

三蔵は親指を立てて見せた。

「それって、どういう意味?」

三蔵は、しばし考えてみた。

「同じ穴の狢…俺のこと、ロクに知りもしねえのかと思えば、肝心なところでナイスサポート、
気が強いだけかと思えば結構お茶目な所もあるヲタクいや小樽出身の姉ちゃんだ」
「あら、道民?」

捲簾はなぜか嬉しそうに笑って、三蔵の髪をわしゃわしゃかきまわした。

「出掛ける前にやめろって!」

「だって北海道って聞くと嬉しくって♪」

「初めての人」が北海道人だった捲簾は後を追って
暫く向こうに住み着いていたことがある。


「でもやっぱ、三蔵はあたしの不動のN.o.2だからさー
さてここで問題、某テニス漫画で不動峰のN.o.2と言えば」

「伊武?昨日もなんかそんなこと言いかけて先に寝ちまって
お前こそ二次元男ラヴじゃねーのか?」

「さぁどうでしょ、そんなことよりNo1ってのは、結構入れ替わり激しいもんでしょ。
どうしてもそのとき優先してしまうキャラってのは、
自分が動かしやすいとか、ビジュアル的に好きだとか、
感情移入出来る関係っていうか。
ぶっちゃけ萌えモードの相手がどうしてもそうなるっしょ。
でもどんなにNo.1が入れ替わってもNo.2ってのは安定してて、
ある意味No.1と別に大事だって、前の前のダーリンが言ってた」

「俺は一途だから1も2もない!つーかお前が語るな!」

「仕事柄話題は多方面に仕入れないとならないからさっ」

「つーか萌えとかどーでもいいから、早く出掛けようぜ!
伊豆山丸出ちまうよ」
*     *     *     *     *



見間違うはずはなかった。

でも、あんな、格好をした三蔵は知らない。

三蔵より、さらに背の高い、黒い短髪の男?が何か言い、
三蔵が、突っ込みきれずWボケかまそうとも、
さらにボケ倒すその男の怪しいオーラに全体が包まれている。

後ろで悟空が笑いながら、釣竿でビシバシ男?をしばき、
二人を追い抜いてタクシーに乗り込み、二人もすぐ後に続いた。
それは勝手な感情なのはわかっている。

自分が知らない三蔵の顔はいくらでもあるのだ。

夜の顔も朝の顔も昼の顔も.......


夜の顔....

急に三蔵の髪の香りを思い出しキュンとした。

違う方面はギュンとした。

三蔵は俺の知らない所で3Pしていたに違いない。


「いや、三蔵に限ってそんなこと...」



否定してみたものの妄想の嵐の中、
「淫乱」の二文字が悟浄にまとわり着いて離れなかったのである。


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悟空、釣りキチ宣言...
三蔵あらたなる趣味に目覚めるのか?
しかし朝から石狩鍋作る捲廉はいかがなものか(笑)
道民のあたしでも作らないのに(家人が魚鍋嫌いなんでー)

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