028 菜の花



「俺がたとえむっつりスケベでも、お前を簡単に挑発するわけがない。
 何でもエロ妄想に結び付けようとするから、余計見苦しくなるんだ。」

三蔵がそう語り掛けると同時に
悟浄のタクティクスがひときわ香り立った。
急に背後から抱きつかれたのだ。


「いてっ」

「あっ...わりぃ。ポケットにこれ入ってた」

「量産型ザク......ミニフィギュアか」

目の前で差し出されたフィギュアを見つめながら、三蔵は妄想し始めた。

〜量産型悟浄......昼夜万能型悟浄...
やっぱ三蔵専用メイド型悟浄猫耳ver.だろ(萌)〜

メイドの奉仕が心地良いなんて遠い記憶の片隅にさえなかったのに。

ゴジョコ時計の音だけが響く部屋で


背中に感じる鼓動


その異常さがすべてを物語る。


「悟浄、お前の心臓、変拍子刻んでるぞ!」

長い沈黙の後に悟浄が口を開いた。


「三蔵...マリオやっぱ頂戴。我慢してたら動悸がして...」

「じゃ、ニャンフェスのゴジョコたんとトレードだ」

「ニャンフェスゴジョコって軽く言うけど
ありゃ会場抽選のスーパーレアだぜ!
このトレード俺がすごく損する気がするけど...」

「認めたくないものだな...お前はそれほどゴジョコたんマニアじゃねぇ」

「三蔵には負けるよ」


エロ妄想が幾分解消されたらしい。
悟浄の表情を確かめるまでもなかった。
声のトーンが明らかにさっきと変わって爽やかだ!

悟浄は安心したように背後から三蔵のマリオを奪った。

「あーもうこんな時間かぁ、やべぇ。三蔵パソ借りていい?」

「いいけど。ネットの履歴とかお気に入り勝手にあさるなよ」

「わかってるって」


悟浄はパソを立ち上げると早速ahoo!オークションに繋いだ。



「オークション終了間際か?
お前は興奮しやすいから...熱くなり過ぎぬことだな。」

「もうとっくにおわっちまってるって...ふふん、俺の勝ち♪
 無闇な暴走は見なかったことにしといて。」


「つーか、お前一体いくらまで自動入札にしてたんだ?」


「ひ・み・つ♪」


悟浄は言葉を続けた。

「自分の欲しいものは無理しても手に入れたいんだ。
 小さな満足が溜まれば心は満たされるのかな...なぁんて。
 食玩やフィギュアに俺自身を投影させてさ。
 だからなんでも集めてしまうんだけど..... 役に立ってるのか解らないし 
 三蔵の言った通り熱くなり過ぎて後で後悔したりしてな。」


「ああ.....どのラインが限度なんてその時は見えちゃいねぇ。
 けど最終的には自分で出した価格を正しいと思わねぇと。」


  三蔵自身迷いそうになった時、頼れるのは自分だった。
それは「欲しい物をあと一歩で横取りされちゃ悔しいでしょ」と
あの人が教えてくれたから、自動延長でもねばることが出来たのだ。
多感な時期を複雑な環境で過ごしてきただろう
悟浄にはそんな助言をしてくれる師匠は居たのだろうか?
居なかったのでは?と思うと少し胸が痛んだ。


親は居なくても、あの人の元でヲカマやゲイにちやほやされていた。

おぼろげにでも本物のヲカマの深情けを覚えているから、
痔炎と蓮実の関係だって悟浄が思っているほど心配はしていない。


でも悟浄はどうだろう。
いまいち方向性が見えない癖に、なにかとつるみたがる
痔炎と蓮実に、嫉妬のようなものを燃やしているのだろうか?
仲間に入っていけない自分の寂しさを紛らわすため
マリオフルコンプがなによりも今、必要なのだろうか...

ふと考えて三蔵は奪われたマリオを軽く撫で回した。


「三蔵...」

「何だ。」

「三蔵んちはキノコでねぇよな?」

照れくさかったのか、悟浄は手を解き、辺りを指差し聞いてくる。


その瞬間ペプシが倒れ、床にこぼれてしまった。

「うわっペプシ〜こぼれたっっ!...えっと、タオルかなんか・・・・
取り合えずこれ使わせてもらうぜ」
悟浄がそばにかけてあったタオルで慌てて床を拭いた。

「ごめん、三蔵。でも53同人誌はこの通り無事だぞ(泣)」

「そのようだな」

まぁこの際、貰った同人誌などどうでもいい。

それよりも慌てふためく悟浄が今までに見たことのない
可愛さオーラを放っていたのを三蔵は見逃さなかった。


「それに...とっさに使っちまったけど...
これって綺麗な色だしどう見ても雑巾じゃねーよな。
もしかして三蔵の顔拭き専用とかだった?」

専用!!!


三蔵はさっきのザクを見たときから、
専用という言葉に過敏になっていた。

「ああ、専用...俺専用.....悟じょ...あわわわっ、
ほら先月出来ただろ、 焼肉五丈源の開店祝いタオルだっ、
俺専用の五丈源のタオルっ!」


「ふーん。俺に内緒で五丈源行ったんだ、おいしかった?」

「ああ、俺好みだった。悪くないぞ」

「じゃあさ、聞くけど、ここに居る悟浄君は?」

「さぁな、本気で食ったことねぇし。どんなもんだろな」

三蔵が冗談を言ったにしてもその答えを聞いて
悟浄はえらく嬉しそうだった。
宝物でも発見したみたいに。


だがそれ以上は突っ込んで来なかった。

「食べてみる?」と言ったところで
クールに断られるのが解っているからだった。

「三蔵」


悟浄の唇が微かに耳元に触れた。

「俺、秋葉臭い?」

「どっちかというと、はんかくさいな。」

(注:はんかくさい=北海道弁でまぬけなこと)


本当にはんかくさい
ヲタク丸出しな今夜の悟浄だった。
執着心が強くて見ていて飽きれる。
俺も人のことは言えないが黙っていれば
イケメン デパートボーイだ!
そんなことを考えている自分が可笑しくて
三蔵は仁王立ちして笑った。



「フハハハハハハハハハ〜馬鹿めが」


あの人もそんな気持ちで自分たちに接していたのかと。
楽しみながら大事に育ててくれたことを思うと、
与えられてばかりだったことが悔やまれる。
せめて餞別にビックリーマンシールの
一枚でも持たせてやれば良かった。
(まぁ勝手に家出したんだからしょうがねぇ)

新刊を追い蝶のように華麗に会場を一緒に駆け回った
懐かしい風景が脳裏をかすめた。
見渡す限り同人誌一色に塗り潰されたあの場所は、
さながら菜の花畑、あの人の聖地だったのだろう。

「三蔵。どうかした?」

「血は争えねぇ...筋金入りだ」

心臓の奥がむず痒くなり残った亀甲縛りパンを一気に食らった。






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すっかり遅くなってごめんなさい。
やっと書き上がりました。
三蔵んちにもキノコが出ればまた夢の寸止めナイトが(笑)
本当はラブ甘にしたいけど、それじゃ話しは終わっちゃうので
まだまだすれ違いヲタライフは続くのであります!


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