003 荒野



最後に血の気が引いたのはいつだったろう。

…「あの人」が男を捨ててから、もう二年にもなるのか。


「線香を焚いて。蝋燭を着けてみて下さい」

天然ボケな横顔が、きらびやかに光る御仏の前で悦に入っていた。


寺院は高台にあって、春はカップルがイチャついているのが良く見えた。

けれどあの時は冬で、人目を憚るホモカップル一組だけが景色に線を引いていた。


「この光のもとにそれよりも沢山の悟りを開いた人が
 生きて暮らしているんですよ」

「…僧ですね」

「その中には私のことをわかってくれる人が必ずいます」

「お言葉ですが...そうでしょうか?」

「おだまりっ!」

彼は、傍らに座った三蔵の頭を仏陀いえ、ぶった。

幼い頃のように。

「そんなに否定されたら、私は安心して行けないでしょう?」

あの人は、猫の盛りを見ずに行った。

モロッコへ........


無数の光の中に、自分が溶け込んで行く場所はない。

そこにどれだけの人がいても、自分の興味の対象でなければ

何もないよりも、ウザイだけなのだ。

大黒屋の主人夫婦の不気味さは、

若輩者らしからぬ、ねっとりとした手触りで、

あの人の与えてくれたものに、通い合う何かがあった。

つい暴走しハイテンションになる自分を

それ以上の暴走でぶっちぎっていってしまう。

淀んだ空気。

毎日のように馴染んでいく一方で、

この妖しさに飲まれるまいと三蔵は努めていた。

いつかはこの夫婦も店を畳屋に改造し、自分とは縁遠くなるハズだ。

が、押しの強いこの夫婦のこと、

「古い畳は変えましょうね。」とセールスに来るだろう。


「焼肉定食、御飯三膳」

これも、あの人の口癖だった。

そう言いながら、何故あんなに一人でボケて突っ込めたんだろう。

自分が堅過ぎるだけなのだろうか。


ホモの夫婦相手なら、急激に、

ドス黒いままで押し留めていられた感情が溢れ出して来る。


ズボンを上げる間もなく、するりと近づいてきた、悟浄。

トイレで覗かれるとは思わなかった。

唇を噛むと、勢い余って血が滲んだ。

指先まで燻りかけていた煙草に気付かず

「アチッ」




階段を降りて辿る道からは、

噎せ返るような汗と涙の匂いがした。

「甘い、お前のプレーには魂が入っていない!」

「すいません、コーチ!もっと激しいのを下さい!」

「いいのか?もっと激しいのを受け取れるのか?」

「大丈夫です、さぁ早く、コーチ来て下さい。
 ここでしっかり受け止めますぅ。」

「いくぞ!うぅおぉ〜〜〜〜〜。」

「あ〜コーチィ〜〜〜〜〜凄くてダメですぅ(泣)。」





「汗臭ぇと思ったら黒薔薇学園の野球部かよっ。」

春の甲子園がまた来る、今年も町内会でカンパすんのかよっと思いながら、

ぼけーっと歩いていると三蔵は転がってきた球に足を絡ませてこけた。

「へたくそっ!球くらいちゃんと取れ!ボケッ!」

そう言うと三蔵は、148km/hで球を投げ返した。

「ちょっと君!黒薔薇学園に来ないか!」

「フン、悪いが俺は立派な社会人だ。あばよ。」

野球は嫌いだ。

学生時代に9回裏、二死満塁逆転のチャンス!と言う場面で

三振して甲子園に行き損ねた......。

「イヤなこと思い出しちまった。」


足早にその場を立ち去る三蔵であった。



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どこが荒野?

最後の下りが高野連(笑)三蔵元高校球児説。

黒薔薇学園の野球部コーチは六道氏です。甲子園出場二回。好きな物:男子学生♪ぎゅん♪

意味不明な方は本家Hbt003荒野参照

チキさん作品を許可得てパロってます←チキさんファンの皆様ごめんなさい。


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