011:柔らかい殻


三蔵は、ふいを突いて、下半身を降り回した。

月の光に、覚醒され出した悟浄の喉が、ごくりと動くのが目に入る。

「三蔵...その腰付き、ただもんじゃねぇ。」

あはん。

習っていたんだ。

俺は新入社員の頃、職場のサークルに無理矢理入れられて。

だけど、今フラダンスは痛かった、と思ってる。


時折、当時を思い出し、押し入れに仕舞い込んだウクレレ「ゴンザレス曙」で
爪弾くメロディが、知らず知らずのうちにウクレレ漫談になってしまい涙を誘う。

あーやんなっちゃーった、あー驚いた。


たかが趣味に余暇や金をかける価値がないような気がしていたのに。

あのサークル活動で、趣味にのめり込むという快感を覚えてしまった。


初めはひとつ買うのでさえ、妙な罪悪感に苛まれ己を責めていたのに、
恐ろしいことに今だクロゼットに眠るアロハの数々......と伝説の高木ヴー。



思えば妙に男臭さに憧れて高校3年間を野球に捧げてしまい、
気がつけば周りは男だらけ、浮いた話の一つも無く
趣味と言えば千本ノック。明けても暮れてもノックノックノック!



しかし、今度は就職してみれば女だらけ......
全く俺の人生薔薇...いやバランス悪ィ。

「三蔵!おい、どこトリップしてんのよ?」

そうだった。一人走馬灯している場合じゃねぇ。


整理してみよう。

悟浄に誘われガンプラを作りに来たが実はプラレールで、
なぜか部屋は薔薇の花弁だらけで、プラレールに酔った悟浄が
窓を開け入ってきた近所の焼き鳥屋の臭いと
俺をおかずに飯を食う......


「俺は何をおかずにすれば...」

「何いってんの?(笑)」

不意に、こうして悟浄の生活を垣間見た気がして、

三蔵は不思議ワールドの魅力にクラクラした。


…うらやましい。

もっと、見てみたい。触りたい。


そうか。

こいつは、俺を嵌めたかったんだ。

同じフェロモンが、今、俺にもあるから、

こいつを引き付けるんだ。


もっと自分を曝け出せたなら...


考えていると足元に何かが現れた。


勢いで踏むと、溢れ出るようなパワー、

そしてもう一人自分がそこに居るような気がして、

…目を疑った。

「…おおっ...!俺が!俺がもう一人いるぅ!!!」

「…ちょっ、三蔵?!」

信じられない光景に目を白黒させている三蔵の頭を、

落ち着かせようとした悟浄がハリセンでスパコーーーーーーン!

飛び出した眼から、ナイアガラの滝の如く火花が散っていた。



「っってぇ。つーか悟浄さっき俺が踏んだのは一体?」

「ああ、あれ、気付かなかったの?1UPきのこじゃん」

初めて見たとは思えない平然とした態度で悟浄は答えた。

「てめぇ驚かねーのか?1UPきのこだぜ!」

「だってたまに出るし...」



たまにかよ!とは思った。

だが疑いの余波は、収まらずに震えている。


「けどよ、今のきのこ、一体どうやったらこんなアパートの一室に忽然と現れるんだ!
 ”さるまたけ”なら解るが..それにアレ踏んだ時に例の音がしたぞっ!」

「隠してたけど三蔵…俺選ばれし者だから」



誇らしげに、悟浄はベッドから滑り降り、

足を投げ出して、ポケットから付け髭を取り出した。

「超毬男団知ってる?」

「はー?」



悟浄は髭を装備し、肩越しに振り向いた。

もう、眼は完全に成り切っている。


「で、どうすんの、この増えた三ちゃん」

「とりあえず、ここは3人でヤルしかねーだろう。三蔵(攻め)そこの手錠で
 悟浄を拘束しろ!」

三蔵(受け)もベッドを降り、半分ほど残った酒瓶を掴み一気に飲み干した。

理性は、程なく遠ざかって、

何だか、頭を覆っていた堅物の殻が柔らかくなっているような気がする。


「夜、明けちまうかもな♪」

嬉しそうに、悟浄が腕を差し出す。

「こう素直だとやる気がうせる。お前もっと抵抗するとか
 泣き顔になるとか、ちったぁ気ィ使ったらどーだ。」
 
三蔵(攻め)の言葉に三蔵(受け)は3人で出来ることを思い浮かべた。

その傍らで期待でワクワクソワソワしている悟浄が言った。

「あ、でも時間ないから無理すんなよ」

「俺は秒殺だ。それに無駄に長いよか、さっさと終わる方がいい。
明日、仕事だからいっぺん帰って着替えねえと」

「こっから行けばいーじゃん。あ、同僚煩ぇ?
三蔵さん昨日と同じネクタイ〜!とか」

「悪いが同じの6本持ってるからな…いつも同じだ、定番だ(笑)
 でも裏にちゃんと番号が書いてある。」


さすが筋金入りの変人。

思ったけれど、悟浄は口にはしなかった。


今、三蔵(攻め)の存在を無視して二人の世界に入っていた。

三蔵(攻め)は居場所に困り隅に蹲っていた。

その時だった。

「悟浄踏め!また来やがった。」

またもや1UPきのこが現れた。




かくして悟浄も二人になった。

「これで思う存分出来るな(笑)。」

そういうと三蔵(受け)はいつの間に見つけたのかゴジョコポンジャンを並べ出した。

「麻雀はできねぇんだけど、これは煩いぜ。」

いい大人四人でこれかよーっと悟浄は思ったが、持ってる自分もどーよと
反省しつつ仕方なく参戦するのであった。

暫くゲームをしていたが突然思い立ったように三蔵(受け)が口を開いた。


「分身が気になる。仕事行く前に合体して一人にならねぇと」

「合体は無理じゃねぇ?分離したんじゃなくって増えたんだから。」

「深く考えるな。出所は俺なんだろ。しかしどうやって一体化すれば」

三蔵は照れたように、言葉を切った。

俺と俺が合体.......

ちょっと自分大好き三蔵(受け)は三蔵(攻め)に言い寄られつい許してしまう
場面を想像してしまった。

「おいすぃかも...」

確かに悟浄をおかずにするよりグルメ度アップ間違いなし。
マニアまっしぐら、お客サン食い付き良し(独断)

「悪いが悟浄、急用を思い出したんでこいつ連れて帰る。
 お前はお前でそいつと楽しめ!」

「ちょっと三蔵泊まって行ってくれないのかよーーーーー。」

「気が変わった。ついでにこれは記念に貰って行く。」

悟浄のコレクションの中から手錠を勝手に手土産にし
1UPした三蔵(攻め)の手を握り白々と明け始めた街に駆け出す
三蔵(受け)の姿があった。


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いよいよベールを剥ぐ三蔵の職業(笑)勘の良い方ならもうおわかりかと。

丸腰デパート勤務。おもちゃ売り場から泣く泣く、去年家庭用品売り場に移動しましたが

ゴジョコちゃんテーブルウェア独占販売に成功し意気揚揚です(笑)

しかし三蔵と三蔵の行方が個人的に気になります。

気になる方はご相談お受け致します(笑)

 

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