025-1 のどあめ(前)

「三蔵、今、来れる?」

「無理だ、連れがいる」

「なぁーんだ、ゴジョコの販促用DVD貰ったんだけど」

「それを早く言えっ、悟浄てめぇどこにいる」

「大黒屋の近くの鐘薔薇公園」

「ベルバラか、待ってろ!今すぐ行くからなっ」

携帯を切って手を上げる。

すぐ、タクシーが停まった。

「どしたの?」

「急用が出来たんで帰る。近くまで乗ってくか?」

「いいよ、ここまで出てきたから、お魚地獄に寄りたいし。じゃ、また明日」


週半ばの道は意外に混んでいたが、運転手に無理をいって20分弱で、公園の入口に着いた。


「お客さん、1870円だよ」

「釣りはいらねぇ、だからちょっと待っててくれ」

「いいの?30円ありがと(笑)。わかったよ、待ってる
(お兄さん、ちょっと僕好みv)」

「すぐ戻る、でも…」

思いついて、携帯を番号表示して見せた。

「待ちきれなくなったら、呼んでくれ」


「しょーがないなぁ(笑)」


階段を、駆け上がる。


熱気が冷めない空気が、重く三蔵のからだにまとわりついた。

街灯の下に、悟浄が、携帯を握ったままの手をぶら下げて立っている。


「三蔵」

足元に、蹲っていた人影が、びくりと動いた。

「三蔵、やっぱ蓮実が手伝うって。進んでねぇんだろ原稿。俺より即戦力になる」

蓮実は、腕で顔を庇いながら、立った。


「任せてくださいよ…。三蔵さん、元壁サークルを侮らないで下さい」


懸命に抑えても、自信がみなぎるのは隠せなかった。


三蔵はそっと、蓮実の肘を引く。

「本当は新刊落としたくねぇんだ」


「…ラジャ」

「製本は出来るか?」

「…オフコース、でジャンルは?」

「ゴジョコ...」


「それってエロ?っすか」


「いや神聖なギャグ本だ」

「三蔵さんがギャグ?想像着きませんが」

「想像は着かなくても落ちは着く、心配するな」


横をすり抜けて行こうとした悟浄の肩を、三蔵は空いた手で捕らえる。

「お前も乗れ」

「俺は大黒屋行きてぇんだよ。さっき清さんからメール来たんだよ。
日本に10個しかない仮面ライダー舞踏会キットが手に入ったってんだよ」

「だめだ!今晩俺にはお前が必要だ」


淡々とした声と裏腹に、三蔵の指は痛いほど力がこもっている。


「そんなストレートに必要だなんて、蓮実に聞こえるっしょ、ヤヴァイっしょ
今晩って、でも三人っしょ、まっまさか?三蔵!!そんな大胆な」


悟浄は妄想が募り頬を赤らめた。


ついでにテンションが20上がった。

「蓮実と俺は多分手が離せねぇ。お前は雑用係りとしてどうしても必要だ」

「雑用...っすか」


悟浄のテンションが一気に元に戻った。

そして下がったテンションのまんま三蔵のアパートへ
引き摺るように連れてこられた。


部屋に入ると、三蔵は蓮実に原稿を渡した。

トーン、ベタを指示し、
自分は残りの下描きにペン入れを始めた。

「トーンは番号エンピツで書いてあるだろ、はみ出さずに注意して貼れ」

100均籠にあったトーンを取り上げると、
カッター片手に原稿をチェックする蓮実が頷いた。

三蔵はネタ帳を取り出し、ネームの再チェックを始めた。

赤ペンを入れて悟浄に渡す。

「見ていいのか?」

「ああ、お前ヒマそうだし、ダメ出しありゃ遠慮なく言ってくれ」

ぶわーっ。


初めて見る三蔵の生ネタ帳アーンドネーム。

こんな堅物野郎がこんなものを!!!


「可愛くて萌える(三蔵のギャップに)」
と、呟いた。


「解るか?お前にも?ほんとに解るのか!苦節2年。
俺のゴジョコたんは黒さと笑いと可愛さあってナンボだからな。」

言いながら、三蔵はタオルを頭に巻いた。

「それ、何のオマジナイ?」


「笑い萌えの神様を降臨させるためのオマジナイだ」


「へえ…三蔵がそーいうこと知ってるって意外」

「そういうのに詳しい奴に教わった、つーか育てられた...」


「…グッジョブ、三蔵さん。悟浄、これでがん細胞50は死ぬよ」


「そいつはすげぇや...」


「前回は15分で完売した」


と自慢してみたが、前回は仕事が忙しくて10冊程しか出せなかったのだ。

あとは申し訳程度の4コマ二本を載せたペーパーで茶を濁した。


時折起こる蓮実の笑いに紛れながら悟浄のイビキが聞こえてくる。

発見した三蔵がストレス発散にハリセンでしばく。

そんな作業の繰り返し。


三蔵と同じようにタオルをまいたまま、笑い萌えしていた蓮実が、
最後のページにトーンを貼り終えると、
三人はマンションを出た。


「蓮実はここで帰っていい。助かった」

「あと大丈夫?」

「ああ、ここまでくれば大丈夫だ」

白々と明けだした空を見上げながら三蔵は言った。


「三蔵早く行った方がいいぞ」

「そしたら、悟浄も一緒に来るか?」

「行ってもいいけど、俺は外で待ってる」

「所詮、同人を恥ずかしいと思っているな」

「そっ、そんなことねーよ」

「嘘言え、俺だってコピー機に忘れた原稿は取りにいけない(泣)」


コンビニで大急ぎでコピーしまくると逃げるように店を飛び出した。

暫く歩いていると、

駅裏のロリータパブ前に、ぽつんと一台空車が居た。

「あれ、お客さん」

「あんたか」

さっきの運転手だった。

「奇遇だな。」


「今日はご縁があるんでしょう、ドライブでもします?」

「いや、近いけど家まで送ってくれ」

誘われるままにタクシーに乗り込むと、運転手は低く文化放送をつけて走り出した。


悟浄が低く、

「姉貴んとこ行くってのは?」

と呟いた。

「今更だが、俺が姉貴の店行って、どうにかなるのか?
原稿は終わってるんだ、後は寝るだけだ」
「三蔵に事実を告げようと思って...
蓮実の壁サークルってのは蓮実と姉貴の格闘系最遊記サークルだったんだよ。
だけど、姉貴が…カップリング違いに走って1年程で空中分解したんだ…
どいつだってついてるモン同じなのに、蓮実はそれが、イヤだったんだ、
俺もそんなに拘るんじゃねえっって諭したんだけど…
カップリングだけは譲れないって...
でも解散の原因を姉貴一人のせいにするのは」

俯いたままぼそぼそ言う悟浄の言葉は、
三蔵にはつかみきれなかった。

(ヤオイってものが俺にはわからねえ、けれど53以外認めたくねぇ)

「事実ってなんだ?つまりお前もヤオイ作家になりたいのか?そういうことか?
壁サークル解散と俺のゴジョコ同人となんの関係があるんだ?
カップリング?ついてるモノ同じ?話見えねぇー53バンザイ\(^o^)/
つーかこんなとこで堂々と言う話題かよっ。」

それはパロディやエロのように在って当たり前なものなのに、
自分には描けない、と告げる時でも場所でもなかった。
ただ53だけは初めて出会った頃から抵抗無く読めるのだ。
三蔵の中の「河童と坊主ワールド」は清く美しいピュアラヴなのだ。
53世界に没頭していると耳を劈く高笑いが突然聞こえてきた。
「あはははははははははは」


「運転手、てめぇ何笑ってるんだ!」

「あはははお客さん隠れヲタクなんだ」


「誰がヲタクだ!どこがヲタクに見える?」

「あはははは、だって君は執着しすぎなんだ。
ヲタクを隠すとか一般人を装うことに。
....だからね、君には”ヲタク”を名乗る資格はないんだよ。」


「だから名乗ってねーんだ!」

「まぁまぁ」

悟浄が場を納めようとし三蔵をなだめた。




三蔵はただ、関節が白くなるほど握り合わせた悟浄の手を軽く叩いた。

前に、蓮実にも同じようにして、
「気安く触らないで!」とセクハラ扱いを受けた苦い思い出が.....


しかし固い悟浄の手は、次の瞬間、きつく三蔵の手を掴んでいた。

「ごめん、手握ってたら萌えてきた。ちょっとだけ、させて♪」

「ここでかよっ...まじ?ここでかよっ!」

「なんなら車そこの陰に止めてもいいよ?(笑)別料金だけど」

今まで大人しかった運転手が嬉しそうに減速モードに入った。






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格闘系最遊記サークル???←突っ込まないで下さい
真にほもプロレスな53?見たくない見たくない
悟浄です。蓮実と姉さんの行く末が色んな意味で解りません(泣)

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